Perfume to 私 と BABYMETAL

PerfumeとBABYMETALのレフトなファンの戯言

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朝の連続web小説 やねこいのーの 特別編 

コレは朝の連続妄想web小説 やねこいの〜 の特別編です

以前の記事は カテゴリーの「朝の連続web小説 やねこいのー」からどうぞ

面倒くさそうなので1話〜15話も追加しました
(2011年1月に書かれたものです)

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あれから何年経っただろう  ずいぶん経ったようであり…昨日のことのようにも思える…

妹がスクールに入ってきた時のことだ

かしゆかは、姉と違って引っ込み思案だった妹に手を差し出した

「握手! 今日から同じ練習生!ライバルでもあり仲間だね!」

彩華は、恥ずかしそうに手を差し出した

「ちゃーぁああぽーーーん!」レッスン室のドアを足で開けてのっちが入ってきた

「やったぁ〜!」かしゆかから彩華を奪い取り、のっちは抱き上げた

一人っ子だったのっちは、はじめてあ〜ちゃんの家に行った時から彩華のことを妹だと決めていたのだ

「ずるい!」かしゆかはのっちから彩華を奪い返した

かしゆかだって妹が欲しくて欲しくて仕方なかったのだ

「あんまり、甘やかさないでね!」そういいながらもあ〜ちゃんは笑っていた

お姉ちゃんたちのようになりたい! 彩華はずっと思っていた

そのためには、お姉ちゃんたちのように仲間を見つけて

お姉ちゃんたちのように、いっぱいいっぱい練習して

お姉ちゃんたちのように、いつも仲間と笑っていよう って思っていた


照明が三人を照らしていた



舞台では3人のお姉ちゃんたちが踊っている

汗をタオルで拭きながら観ていると、今までのことが走馬灯のように想い起こされた

ずっとずっと夢見ていた

3人のお姉ちゃんと一緒に舞台に立つ

涙が後から後から溢れ出てくる

そっと誰かが彩華の肩に触れた

その手は、一本…二本…三本…四本 

振り返ると彩華だけの仲間がいた

いろいろあったけど…今はこの仲間が私にとっての、かしゆかでありのっちであり…そして、あ〜ちゃんでもある。

四人も涙を流していた

「やっと、ここまで来れたね。」

「やっぱりすごいね。ちゃあぽんのお姉さんたちは…」

「負けられないね。私たちも…」

「絶対に追いついて…追い越そうね」

四人は涙声でそう言ってくれた

「うん。一緒にね…」ちゃあぽんはそう応えるので精一杯だった

「このステージで一緒に歌ったこともあるんでしょう?」かんちゃんがそう言った。

「このあと、一緒にやるんだよね…あのPerfumeとだよ。」うっきーが震えていた。

「なんか…夢を見ているみたい…」ひろろが手を強く握ってきた

「輝いているね…お姉さんたち…」うみにーが舞台を指さした

この郵便貯金ホールで、お姉ちゃんたちのパフォーマンスを觀た時のことを思い出していた

あの頃とは比べ物にならないくらいに大きくなったお姉ちゃんたち

だけど…何も変わっていないお姉ちゃんたち

のっちが、舞台袖を一瞬振り向いた気がした

ターボがかかったみたいにダンスがキレッキレになった

「どう?。ついて来れる?私たちに?」

かしゆかも振り向いた気がした

「ほら、笑って! こんな素敵な時間じゃない!」


あ〜ちゃんが振り返って手招きした

「では、一緒にコラボレーションしたいと思います!9nineです!」

観客の大きな歓声は雷のようだった

いつのまにか…娘が七人に増えていた三人の母親は、関係者席で涙を流していた

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第1話
 本社ビルから出て渋谷駅に向かう緩やかな下り坂道。鮨屋の横を通り過ぎたとき、西脇さんがハンカチを出して目頭をおさえた。大本さんの奥さんがそっと肩を抱いてさすった。樫野は大本さんの頬に流れている涙を見て、自分も泣いていることに気がついた。
 雪が降る函館公園。一緒に散歩している有香の表情を思い出した。幼い頃からやんちゃだった有香は小学校入学と共に表情が乏しくなっていった。父親の転勤で小学校低学年での転校が原因のようだった。さらに、学校が変わることに備えて、勉強に対して厳しくしすぎたのかもしれない。雪道を振り返ると、いつの間にか髪が長くなっていた有香の鼻が赤くなっていた。「おいで、有香。おかあさんといっしょに歩こうよ。」しゃがみ込んで、寒さに震えている野良犬を撫でていた有香の姿を思い出してしまった。
 広島では考えられないほど混雑している電車の中でも、三人の涙が止まらなかった。東京の人たちが無関心を装ってくれているのが救いだった。三人の娘が何の心配もなく希望に満ちていた笑顔だったことが救いだった。
 樫野はあの日からの娘の変わり様に感謝していた。広島に転校してからストレスが溜まったためなのか、長男との喧嘩が絶えなかった。それなのに、兄が受験する芸能スクールオーディションについてきたことに驚いた。「ねぇ、有香。暇しているんだったら…あなたも受験してみたら?」何気なしにそう言ってみると、有香は後部座席でコクンと頷いた。「え?…本当に受ける?」 声も出さずに、恥ずかしそうにもう一度、頷いた。
 会場に入ると大勢の子供達が受験に来ていた。「次のオーディションで申し込みできるって!」書類を持って長男の元に戻ると有香はいなかった。「あれ?有香は?」「ん?わかんない。」
 少し離れたところで有香は誰かに話しかけられていた。側にいくと自分と同年代の母親が話しかけてきた。「うちの娘も今度、受けるんで見学に来たのです。お兄さんが受けるんですって?」
「え…あ…はい。」有香がしがみついてきて自分の後ろに隠れた。泣きそうな顔をしていた。
すると、その人の娘さんは満面の笑顔で「私も同じ四年生なんだよ!よろしく!」そういって手を差し出してきた。「え…はい…」なぜか、人見知りな有香が差し出された手をとって握手をした。
 羽田空港から広島空港に到着しても三人の涙は止まらなかった。自分も涙を流しているのに、搭乗手続きなどを手伝ってくれた大本さんに感謝していた。三人は会話をしていないのだが、お互いの気持がわかっていた。同じ中学への転校手続きでも、事務所の挨拶でも気丈に振舞っていたが、心臓を鷲掴みにされた様に痛かった。だが、娘たちと別れて暮らす寂しさはあったが、なぜか心配はしていなかった。西脇の娘さんと大本の娘さんと一緒なら、何も間違いはないはずだ。樫野はそう思いながらも止まらない涙に困っていた。

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 第2回

これまで、数多くのオーディションを観てきた。しかし、その彼でさえ驚いてた。
わざわざ全国の提携芸能スクールに出向いていたのは、低学年のコースからの才能溢れる生徒か、すぐにでもデビューできる年齢の即戦力のある才能を期待していたのだ。
どの子も上手い。SPEEDの影響は大きかった。だが、彼の琴線に触れる子はいなかった。
そんななか、突然、絵本を読み始めた子がいた。あの、Dクラスの子だった。
最初は審査席の全員が苦笑した。「おいおい、なに勘違いしているんだ…」
だが、その絵本の話が進むにつれて、誰もがその少女の声と読み方に惹きこまれていった。
プロフィールを見ると、あの演技力抜群でアドリブのきく女の子と一緒のグループをつくっているみたいだった。
正反対にみえる二人が組んでいるユニットとはどんなものなのか興味が湧いた。
大里会長はプロフィール用紙に印をつけた。 そして、今日一番楽しみにしていた子のプロフィールを確認した。
そのスクールで一番の歌姫と言われる少女は、ストレッチを披露したのだった。
奇を衒うわけではなく、純粋に自分の一番得意なものを披露している。
さっきの子といい、変にすれていない生徒がいるスクールだった。この三人が組めば面白いかなと一瞬思った。
ずいぶん前に自分が担当していた三人組の姿を何故か思い出したのだった。
 
「練習に行ってくるね!」小学校から帰ると彩乃は自転車ですぐに出かけていった。
「ちょっと、彩乃!鞄を忘れている!」慌てて追いかけたけれど間に合わなかった。
「本当に、あの子ったら…」  
 彩乃は歌を大声で歌いながら全力で自転車をこいでいた。
 新幹線に乗り遅れるとまた遅刻しちゃう。これで遅刻したら先生に嫌われちゃう…。
いつも気にしているのだが、ついつい時間を忘れて遊んでしまうのだった。
でも、少しサボりたくもあった。だって、今やっているユニットは男の子と一緒なのだ。
どうも、男の子は苦手なのだ。ダンスはどうしても男の子の動きに負けてしまう。
それも悔しい。絶対、もっともっと歌もダンスも誰よりも上手くなってSPEEDに入るんだ。
 福山駅前の自転車置き場に自転車を止めて、彩乃はホームに向かって走った。
 ダンスの練習が終わったときに、Dクラスの子達が騒いでいた。
「トイレに開かない個室があるんだけど… オバケかなぁ?」
「え!みんなで見に行こうよ!」
「彩乃ちゃんも一緒に行くよね!」
Aクラスの子が誘うので、怖かったけどついていくことにした。
恐る恐るトイレに近づいてドアが開くのを待ったのだが…何も起こらなかった。
次のレッスンの時間があるのでみんな帰っていった。
彩乃は、立ち去るきっかけを失っていた。
「開かないね~」 あ、ぱふゅーむの綾香ちゃんが話しかけてきた。
「開かないね~」人見知りする彩乃はそう答えるのに精一杯だった。
ぱふゅーむの三人は、とてもかわいいパフォーマンスをするのでスクールの中でも注目されていた。
Dグループなのに発表会で必ず良い成績を残していた。
そういえば、次の発表会はどうするんだろう。メンバーの一人がやめたので、二人で出るのだろうか。
彩乃は複数のユニットに参加していたが、どうも自分の居場所ではないような気がしていた。洗顔フォームのCMキャラクターに選ばれてから、ひとりだけ忙しくなちゃって、さみしい思いもしていた。

「ねぇ、あなた彩乃ちゃんじゃろ。ずっと前からファンだったんじゃよ。」
「え?私もぱふゅーむ好きだよ。」
「うそ、ぱふゅーむ知っているの?」綾香はおどけてみせた。
「綾香ちゃん、私と友だちになってくれる?」
「なにいってるの。もううちら友達じゃろ。」
彩乃は今日スクールをサボらないで、よかったと本気で思っていた。

つづく?
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第3回

「子供たちは?」靴を脱ぎ、疲れきった顔で玄関に座り込んだ父親は、そういった。
「お疲れ様、このところ大変そうね。」と母親は冷たい水を差し出した。
「いゃあ、三人の顔が見れんのが辛いな…」
「まぁ、寝顔だけでもみてあげて。」
「ああ、そうするよ。」そういって鞄を手渡して寝室に入っていった。
「たかしげは大きくなったな…」
「そうそう、今日ね、あやちゃんがね、ピアノ辞めたいって言い出したの。」
「え?ピアノは辞めないっていっていたよな。」
「そう、幼稚園の先生になるならピアノは絶対に必要だからって言ったんだけど…」
「あやちゃんは、なんて言ったん。」
「本気で歌手になるって。よっぽど悔しかったようね。」
「何が?」
「Dクラスでも頑張れば…一人じゃ無理かもしれないから仲間と一緒に頑張ればAクラスの子達と張り合えるって思っていたらしいの。」
「でもね…一緒のグループだった子が辞めちゃって…。」
「それで?」
「誰に似たのかねぇ。余計に闘志がみなぎったみたい。」
「ふーん。もう一人の子は…辞めていない子は?」
「ゆかちゃんのこと? あの子も見かけによらず負けず嫌いだから、あやちゃんと一緒に頑張るって決意したらしいの。」
「大変だなぁ…でも、歌手になるにもピアノは必要じゃないのか?」
「それが、もっとダンスと歌の練習をしたいっていうの。そして幼稚園の先生をちゃんと諦めることが第一歩だって言い出したの。」
「言い出すと、きかん子だ。誰に似たんかね。」
「そうじゃねぇ。」
夫婦は襖を閉めて遅い食事をするために台所にむかった。
妹と抱き合うように寝ている綾香は、なにやら寝言を言っているようだった。

同じころ、樫野家でも夫婦が話し込んでいた。
「ねぇ、私たち、有香に厳しすぎたんじゃないかな…」
「俺もそう思っていたんだ。ついつい忙しさにかまけて…有香の言葉をちゃんと受け止めてやれんかったんじゃないかって…」
「学校の先生に注意されちゃった。なにか問題でも抱えているんですかって。」
「なにかあったのか?」
「うーん、本人は何も言わないけれど、友達と上手くいっていないみたい。」
「まいったなぁ…いじめとかに発展しないといいけど…」
「私もそれが心配で… ほら、あの子、自分の声にコンプレックスを持っているじゃない…」
「え?」
「なに?知らなかったの?。前の学校でずいぶん馬鹿にされたらしいの。」
「ふーん。そんなに変な声かなぁ」
「とにかく、それがきっかけかどうかわからないけど、今度の小学校でも、暗くて目立たない子らしいの。」
「それで?」
「今日の昼休みにね、一人で音楽室でシロフォンに向かって話しかけていたんだって。」
「シロフォン?」
「木琴の大きいの。」
「楽器を習いたいのかな?」
「そうではないらしいの。ただ、とても独り言が多いらしいの。」
「昔は男の子並に腕白だったのにな。」
「うさぎ小屋に入り込んでいたこともあったらしいの…」
二人は、有香がそんなふうになってしまったのは自分たちの転勤のせいだと思い始めていた。
どうせ、今の学校もすぐに転校しなければならないのだ…
ちょっとの沈黙が食卓の上にとどまった。
「で、スクールの方はどうなんだ?」
「それが別人なの。相変わらず無口だけど…あやちゃん…あ、この前話した西脇さんの娘さんね。」
「ずーっと彼女の後をついてまわって、楽しそうにやっているの。」
「へぇ、でも、別のグループじゃなかったけ。」
「いつの話をしているの。今はあやちゃんと一緒に、ぱふゅーむってユニットを頑張っているわ。」
「そっか、スクールには居場所があるんだな。」
「ただ、三人グループの一人が辞めて、このところ暗い表情なの。」
「ふーん。」
「だから…ねぇ。」
「なに?」
「学校の成績とか勉強時間とか、あまり有香に言わないでおこうと思うの。」
「それとこれとは…」
「ううん、有香はちゃんと良い成績よ。本人が一番分かっているの。でも、少しくらい成績が下がっても…あなたも許してあげてほしいの。」
「そうだな…。」
「あの子、なんでスクールに入ったのかな。それほどダンスも歌も得意じゃなかったのに…」
「…」
「いまじゃ、あやちゃんちに泊まりこんで練習したりしているの…」
「あの子の居場所は…スクールなんだな…」
「そうね…さみしい思いばかりさせてきたものね…」
「ああ…」
この夜、有香の父親は、次の転勤を単身赴任にしようと決意した。
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第四回

「田中先生、私、ぱふゅーむを続けたい。三人のユニットでやりたい。」
綾香の訴えに、田中先生はたじたじだった。隣で緊張して姿勢よく立っている有香も唇を噛み締めながら綾香の話に合わせて頷いていた。
「うーん、ちょっと難しいよね。どちらかというと、あなたたちのパフォーマンスは独特だからね…」
スクールではブラックミュージックダンスのパフォーマンスが主流だった。
「ぱふゅーむに似合う子ってそうそういないわよ。」
綾香と有香のすがるような目に、その場を取り繕うように田中先生は「まぁ、先生も考えてみるわ。」
と話を打ち切り、ボイストレーニングを始めた。

ずいぶん声が出るようになってきた。有香は綾香の声量についていくのに必死で練習している。
綾香は有香の声量に合わせる技術を身につけてきていた。

練習が終わって、部屋を出るときに綾香は、さっきの話をまた持ち出してきた。
「先生、同じくらいの背格好で、同じ血液型…有香も私もA型なので、できれば同じ血液型で…」
「ねぇ、西脇さん。もしかしてあなた、意中の子がいるんじゃないの?」
「え…べつに…ただ…ありがとうございました。」そういって大きな声でお辞儀をした綾香は、有香の手をとって走り去ってしまった。
「本当に、あの子は分かりやすい性格だわ。」苦笑しながら田中先生は、綾香が忘れたらしい楽譜を見て愕然とした。色鉛筆でびっしりと描かれた注意事項。自分の感じた課題などが幼い文字でびっしりと書かれてあった。しかも、今レッスンしている部分だけではなく、最後のページまで書き込みがしてあり、なんども練習していることがわかるくらい、ページが柔らかくなっていた。

それから数日後、西脇さんの母親が訪ねてきた。綾香も一緒だった。
「先生、うちの綾香はプロになるっていっているんですけど…」
そういうふうに訊いてくる保護者はたくさんいた。だが、西脇の母親の態度は独特だった。
「昨日の夜、夫と話し合ったんです。無理かもしれないけど、出来る限り応援…いえ、本当に駄目だと綾香が諦める日まで、私たちは全力で応援しようって…何年かかろうと…でも…素人の私たちにはどんな手伝いができるのか… それに…今の綾香には何が足りなくて、どんなふうに…」
「おかあさん、そんなに興奮しないで…仰りたいことはよくわかります。」
「綾香は有香ちゃんと一緒に、ぱふゅーむとしてプロになりたいっていっているんです。それはどうしてなんでしょう?」
「うーん。ちょっと言いにくいのですが…正直に申し上げますね。多分、綾香さんも自分で分かっていると思うんです。」
「と、申しますと?」
「歌唱力にしてもダンスにしても、綾香さんはまだまだです。レッスンを始めるのが遅すぎたのです。せめて彩華ちゃんくらいの年齢から始めていればよかったのですが…まぁ、今から猛練習を続けることができたとして…二十歳くらいでやっとスタートラインに立てるかもしれないレベルです。」
「はい…」蚊の鳴くような声で母親は返事をした。
凛とした姿勢で田中先生は続けた。
「それに、気を悪くなさらないでくださいね。綾香さんも有香さんも…飛び抜けたルックスを持っているわけではありません…この世界はルックスが大きな武器になるのはご存知ですね。たしかにあの二人は可愛いのですが…飛び抜けた美少女ではありません。が…しかし…」

「が…しかし?」

「彼女は物凄い魅力を持っています。大人の私でさえも惹きこまれるほどの魅力です。それは武器です。」
「たしかに…変な子かもしれませんが…」
「ただ、彼女の力は仲間がいてこそ発揮されるのです。自分のためというより仲間のために…と思ったときに彼女の魅力は大きく発揮されるのです。」
「はぁ?」
「数日前、有香ちゃんと二人で話をしにきたのですが、ずーっと有香ちゃんのことを気にしながら話していたんです。たった一人だとあんなに熱く語ることは出来なかったと思うのです。」
「たしかに…あの子は…」
「小さい頃からそうだったんじゃないですか? 彼女はユニットだと持てる魅力が何倍にも発揮できるんです。」
「それで…あんなに目立ちたがり屋だった子なのに、ユニットにこだわっているんですね。」
「そうです。綾香ちゃん自身が一番良く分かっているのです。ただ、ぱふゅーむを…綾香ちゃん有香ちゃんと一緒にやれる子ってそうそういないと思います。」
「そうなんですか?」
「ええ、彼女たちは、誰とでも仲良くやっていけます。でもそれじゃあ彼女たちがダメになります。」
「…」
「彼女たちが今以上に頑張れる仲間が必要なんです…」
「誰か心あたりがあるんですか?」
「ええ、ここ数日そのことばかり考えていました… あ、綾香ちゃんいますよね?」
「はい、外で待たせています。」
そう聞くと田中先生は椅子から立ち上がり、ドアを開けた。
廊下の向こうには、窓に反射した自分の姿を見ながら黙々とダンスの練習をしている綾香がいた。
「あれ、有香ちゃんは?」
「あ、田中先生! もうお母さんとお話し終わりましたか?」
「まだよ、有香ちゃんもいたら一緒に部屋に来て。」
「有香ちゃんは、お母さんが迎えに来て先に帰りました。」
満面の笑顔でそういいながら駆け寄ってきた。額の汗でくせ毛が濡れていた。

ぱふゅーむとしてこれから続けていく綾香の心を確認してから、田中先生は二つの案を西脇家の二人に提案した。
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第五回

発表会まであと一ヶ月を切っている。綾香は、ダンスが上手く歌唱力も高くルックスもいいある少女を誘ってみた。「ねぇ、一緒に…ぱふゅーむとして発表会に出てくれない?」
「ごめん、私もう他のユニットで手一杯だし…ちょっと、ぱふゅーむのキャラがあわないかも。でも、綾香ちゃんと二人だけのユニットだったらすぐにできるけど…」
「そう…残念ね。私は…ぱふゅーむで行くって決めたの。じゃぁ…」
予想していた答だったけどショックだった。
たしかに、可愛い系の曲や衣装のぱふゅーむだけど、やっているパフォーマンスには自信があった。
発表会でもいつも成績はトップクラスだったし、それに可愛い系ばかりを選んでいるわけではない。自分たちの年齢に似合ったパフォーマンスをしているだけだ。どんなに良いパフォーマンスをしたって、B系じゃないと評価されないなんて…。いろんなことが頭の中に渦巻いていた。
 階段の入り口まで来たときに、有香の姿が見えた。思わず抱きついて泣いてしまった。
「どしたん。なにがあったの?」優しい声が痛みを癒してくれた。
「なんでもない…なんでもない…」そういいながら綾香は泣き続けていた。

 田中先生の提案はこうだった。
 一つ目の選択肢は、有香と二人組のユニットとしてぱふゅーむを続ける。そして、正式にデビューが決まるときに新たなメンバーを入れる。そのメンバーに負けないくらい、今から猛練習をする。
 二つ目の選択肢は、Aクラスのスクール一番の大本彩乃をメンバーに入れるというものだった。
「えーっ、彩乃ちゃんは無理じゃろう?」
「どうして?あなた達二人と同じ年令で、背格好も血液型も同じ。そして広島アフタースクールで一番の歌唱力とダンススキルを持っている。しかも、美少女よ。ぱふゅーむに入ってくれたら凄いじゃない。」
「そりゃそうだけど…無理じゃろう。だって、彩乃ちゃんはAクラスのお姉さん達とユニットをいくつもかけ持ちしているし…それに…」
「それに何?」
「彩乃ちゃん、遅刻も多いし…」
「それが理由?」
「絶対断られるよ。ねぇ、お母さん。」助けを求めるようにそう言ったのだが…
「そうね。無理ね。そんな弱気だったら誘われた彩乃ちゃんも迷惑よね。」
いつになく厳しい口調の母親に驚いた。
「でも…お母さん…」
「そうね、じゃぁ二人で頑張りなさい。それじゃぁ、お母さんそういうことで…」
そう言って田中先生はさっさと出ていってしまった。
「どうも、ありがとうございました。」母親は綾乃の頭を手で抑えつけて一緒に深々とお辞儀をさせた。

「あのー相談があるんですけど…」
有香の母親は突然の呼びかけに驚いた。「なに?綾香ちゃん。有香を呼ぶ?」
「いえ…いいんです。有香のお母さん…有香はぱふゅーむのこと…プロになりたいって話していますか?」小学生には見えないしっかりとした口調だった。
「そうねぇ…はっきりと話し合ったわけじゃないけど…有香はあなたが…綾香ちゃんがプロになるなら一緒になりたいって思っているはずよ。」
「ほんとう?」
「ええ。綾香ちゃんが諦めたら諦めてしまうでしょうけど…ごめんね、あなたに責任を背負ってもらうつもりじゃないの…。有香はあなたと一緒にパフォーマンスできることが生きがいなのよ。」
「生きがい?」
「そう、あの子はあなたと…ぱふゅーむをしている時が一番良い表情をしているの。あんなに素敵に笑う有香は…ぱふゅーむでいる時だけなの。だから、ぱふゅーむを一緒にやりたい。つまり、ぱふゅーむとして綾香ちゃんがプロになるなら、有香は間違い無くプロを目指すわ。それにあの子の負けず嫌いは知っているでしょう。」そういって有香のお母さんは優しく笑った。
「おばさん、彩乃ちゃんって知っている?」
「え?あのディーバの彩乃ちゃん?」
「そう。私…彩乃ちゃんをぱふゅーむのメンバーに誘おうと思っているの…でも、有香ちゃんは彩乃ちゃんと話したこともないし…それに…あの二人は性格が合うかなぁって思うの。」
「何言っているの?彩乃ちゃんが入ってくれたらぱふゅーむって最強になるじゃない。メンバーが少々喧嘩してもいいのよ。それぐらいでなきゃプロになりたいって言えないものよ。なにより大喧嘩したって有香は絶対にぱふゅーむを辞めないわ。おばさん自信あるよ。」
綾香はその言葉を聞くと、唇をぎゅっと噛み締めて真剣に見つめた。
「ありがとう、おばさん。これからなにがあっても有香を辞めさせないでね。私、決心した。」
そういって深々とお辞儀をして綾香は走り去ったのだった。
「これは大変なことになりそう…」そう思いながらも樫野有香の母親も強い決心をしたのだった。

「ねぇ、今日、あやちゃんがね…起きてる?眠っちゃった?」
「うん、起きているよ。どうしたあやちゃん。」
「あやちゃんが、ぱふゅーむにスクールで一番優れた生徒をメンバーに誘うっていうの。」
「ふーん。入ってくれそうなのか?」
「多分、断れるじゃろうって。でも、それくらいの気持ちでなきゃプロになるなんて口にだしちゃいけないっていうの。」
「たいしたもんだな…」
「そうね、誰に似たのかしらね。」
「上手く行くといいけど…」
「そうだな。きっと上手く行くよ。」

「先生、先生の言うように大本さんを誘います。」
「あれ?他の子を誘って断られたから?」
「違います。たしかに自信がなくて…でも…断られていろいろ考えてわかったんです。上手く言えないけど…私たちに実力がないからこそ大本さんでなきゃいけないって。今のぱふゅーむには彩乃ちゃんが必要だって。」
「そう。じゃぁどうする?先生が尋ねてみようか?」
「いいえ。私が誘います。断られてもいいから私が誘います。」
「ふーん。」田中先生は笑顔にならないように、あえて素っ気無く答えたのだった。


エレベーターの前で深く深呼吸をした。
「もし、断られたっていいんだ。今回の発表会に間に合わなくたって、次の発表会で誘えばいい。それでもダメなら次の発表会で誘えばいい…。」
ここ数日、ぱふゅーむのことを考えていたにも関わらず有香に一言も相談しなかったのにも理由がある。
有香の本気度を試すためだった。そして、人見知りな有香が彩乃ちゃんをライバルと思ってくれるといいと思っていた。
エレベーターのボタンを押すときに指先が震えた。いつも押し慣れているボタンなのに。
ゆっくりとエレベーターが上昇し始めた。
彩乃ちゃんまだ帰っていないはずだよね。どこにいるかな?。誰かと一緒だと嫌だな…。
いろんな思いが頭の中を駆け回った。
ちーん。エレベーターの扉が開いた。
すると、そこに彩乃ちゃんがお菓子を抱えて一人で立っていた。
「あ、彩乃ちゃん。」
「あ、綾香ちゃん。」
「今から降りるの?」
「うん、綾香ちゃんは?」
「え…うちも今から降りるところ。」
「ふーん。いっしょじゃね。」
「ほーじゃね。」
エレベーターのドアがしまった。
好都合なことにふたりきりだった。
「ねぇねぇ、彩乃ちゃん…彩乃ちゃんうちらと一緒に…ぱふゅーむ入らん?」
何気ない口調で言ったが、心臓はバクバクいっていた。
「えぇー!ぱふゅーむ? 入る!入る!」
「え?ほんと?」
「うん、入る!」
「きゃー!」二人は手をとりあってはしゃいだ。
ドアが開くと綾乃は全速で走って玄関で待っていた母親に抱きついた。
「彩乃ちゃん入ってくれるって!ぱふゅーむに入ってくれるって!やったー!」
綾香も母親もボロボロと涙をこぼしていた。
エレベーターのドアのところで、お菓子をポリポリと食べながら、彩乃は不思議そうな表情で母娘をみつめていた。

新幹線の座席で彩乃はニヤニヤと笑顔が止まらなかった。
あの綾香ちゃんが、ぱふゅーむに自分を誘ってくれた。自分もあの可愛らしいパフォーマンスが出来ると思うと嬉しくて仕方なかった。発表会での歌を練習しなきゃ。ワクワクしていた。なにかすごいことがこれから始まりそうな予感がした。
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第6回
「えぇ!彩乃ちゃんが!」
小さな目を思い切り見開いて有香は驚いた。
「うん。ぱふゅーむ入ってくれるって。」
「えぇ~うそー。鳥肌たっちゃった。」
「私も信じられんけど、彩乃ちゃん喜んで一緒にやってくれるって。」
有香は口に手を当てたまま固まってしまった。
「それで、今度の土曜日にうちに集まってミーティングしようって話になったんだけど…大丈夫?」
「え。どうしよう!。ちゃんと話せるかな…。あ~ちゃん助けて!」
「大丈夫よ。友達になるんじゃないけん。ユニットとしての仲間じゃ。強力な助っ人よ。」
「そうだね。でも、彩乃ちゃん幻滅しないかな。」
「そこよ。彩乃ちゃんに負けないために、今まで以上に練習しなきゃね。」
「あたし、明日からスクール早めに来る。彩乃ちゃんが来るまえに少しでも進歩したい!」
綾香は有香のその言葉を聞いて、間違いなかったと思った。この子と一緒にやれば私は絶対にやっていけると思った。
 
 小学校から急いで出ると校門のところでお母さんが待っていた。
「あれ、どうしたん。」
「有香、スクールまで送ってあげるよ。」
「ほんと!おかあさん!、有香、嬉しい!」
「今日から、早めに練習を初めて、遅くまで残るんでしょう?」
「どうしてそれを…」
「明後日の土曜日は西脇さんちに泊まるんでしょ。」
「おかあさん…」有香は涙ぐんでいた。
お母さんが大変だと思ってなかなか言い出せなかった送迎と宿泊の許可について…
有香のことを思っていてくれた気遣ってくれた…お母さん仕事で忙しいのに…。小さな胸がキュッと熱くなった。

「帰る準備を始める前に連絡してね、それまで仕事しているから…」お母さんが自動車で走り去ったのを確認して有香は階段を駆け登った。練習室のドアを開けると発声練習をしている子がいた。
「あれ、ゆかちゃん、どうしたん?」
「え、あ~ちゃん?」
綾香がもうレッスン着に着替えて練習を始めていたのだ。
「もー!悔しい。有香が一番だと思っていたのに…」
有香も大急ぎで着替えて発声練習を始めた。
1時間でも30分でも1分でも1秒でも多く練習して、彩乃ちゃんに負けないくらい上手にならなきゃ。そういった思いが強くあって、どうしようかと思っていたところに西脇と樫野の母親がふたりとも協力してくれたことも嬉しかった。そして、相談もしなかったのに、二人の気持ちが一緒だったことが嬉しかった。
 他の生徒が集まってきて賑やかになってきた。そこに、彩乃ちゃんがいつものように遅刻して現れた。
「彩乃ちゃん、知っていると思うけど有香ちゃん。」
「よろしく。」有香は精一杯の声で挨拶した。
彩乃はチーズ蒸しパンを口いっぱいに頬張りながら、「ろろしく!」とペコリと頭を下げた。
スクール一のディーバがAクラスではなくDクラスで練習を始めたのでスクール内は騒然となった。
「え、彩乃ちゃん、ぱふゅーむに入るの?」
「うそ、似合わない。」 「もったいない!」など他の生徒の声が聞こえてきた。
でも、彩乃はそんなことは一切気にせず、Dクラスの練習メニューを一緒にやっていた。
「あれ、大本さん。どうしてここに?」
20歳になったばかりのダンスの水野先生が教室に入ってきて驚いた。
「あ、わたい…私。ぱふゅーむに入ったんれす!」彩乃は直立不動になってそう答えた。
「でも、発表会の他のユニットもあるでしょ。」
「れも、わたし、ぱふゅーむに入ったんれすから。」
これ以上何を言っても会話にならないと思った水野先生は、ニコニコ笑いながら練習を始めた。

彩乃のダンスのキレはすごかった。見ているだけで勉強になる。
綾香と有香は、彩乃の動きをなかなか真似することが出来なかった。
「彩乃ちゃんすごいね。」「すごいよ彩乃ちゃんは。」二人はドキドキしていた。

練習時間が終わり、「おつかれさま…」とみんなが帰った後も、綾香と有香は残って練習していた。
帰る準備をしていた彩乃は、また練習着に着替え直してきた。
「え?彩乃ちゃん、もう帰らないと…新幹線なくなちゃうよ。」
「いいよ。ぎりぎりまで一緒にやらせて。だって彩乃もぱふゅーむだもん。」
有香は驚いていた。まだ会話を交わしていないが彩乃ちゃんはかなり変わった性格のようだった。
結局、ビルが閉まるぎりぎりまで練習をしたので、彩乃は有香のお母さんの自動車で広島駅まで送ってもらってなんとか最終に間に合った。

にこにこしながら彩乃は新幹線のシートで今日一日のことを思い出していた。
綾香ちゃんと一緒にいると、なんか世界が広がる気がする。有香ちゃんとは話していないけど、なんか頭が良くって、ダンスも独特のグルーブ感を持っている。私に持っていないものをいっぱい持っている二人と一緒にいると、なんだかいろんなモノが吸収できる気がした。なんだかゆったりとした気持ちになって眠り込んでしまった。気がつくと寝過ごして車掌さんに起こされた。そこは岡山駅だった。

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第7回

「ねぇ、これから私お風呂に入るから…この携帯のパスワードを二人で解いてみて…」
そういって綾香はさっさとお風呂に入ってしまった。
樫野の母親に送ってもらって西脇の家に来るまで彩乃と有香の間には全然会話が成立していなかった。
ふたりとも人見知りが激しい。それに今日の練習での有香の気迫がすごかった。
まるで彩乃とダンスバトルするように、すぐ隣で踊りまくったのだ。
水野先生はおもしろがって、どちらかが音を上げるまで踊らせ続けた。まるで火花が飛び散るような感じで綾香はオロオロした。でもそのうち、有香の気迫に感動したのだった。
 結果は彩乃が最後までリズムを崩すことなく踊りきってしまった。リズムが崩れて、踊れなくなったその時の有香の表情を綾香は頼もしく感じた。もしかしたら、ぱふゅーむは凄くなるかもしれない。そう思った瞬間だった。

 綾香が携帯を残して先に風呂に入ってしまった。
残された携帯のパスワードを解くために、彩乃はランダムに数字を打ち始めた。
すぐに飽きてしまい、無言で有香に手渡した。有香は綾香や綾香の妹の誕生日だけではなく、弟のたかしげの誕生日など思いつく数字を次々と打ち込んでいった。横で黙って見ていた彩乃は小さな声でこういった。
「ねぇ、解けた?」
「ううん…ダメみたい。」そういって彩乃に携帯を手渡した。
「彩乃ちゃんやってみて。」
「うん。」
二人はほとんど会話をせずに暗号解読に挑戦していたが、飽きてしまった。
綾香の風呂は長かった。そのうち彩乃の寝息が聞こえてきた。
寝顔の美しさに有香ははっとした。自分と同じ年令の彼女は、福山から新幹線で通ってきている。
広島で母親に送迎してもらえるようになった自分に比べると、スクールに通うことだけでものすごいことなのだ。
今日、私は彩乃ちゃんをライバルというより敵のように思ってダンスに挑戦した。
勝てないことはわかっていた。そんな、数日の特訓で追いつけるほどダンスは甘くない。
でも、挑戦してみたかったのだ。自分と彩乃ちゃんのレベルの差を知りたかった。
でもいま、すぐ側で寝息を立てて眠っている彩乃ちゃんの顔を見ていると、自分は愚かだと思った。
「わたし、ぱふゅーむに入ったから。」
そういって、他のユニットとの練習もあるのに、綾香ちゃんと私の練習場所で練習してくれる。
そう…ライバルなんかじゃない。そして敵でもない。彩乃ちゃんは私の仲間なんだ。

するとある数列が思い浮かんだ。有香は素早くその数列を打ち込んだ。

 「ねぇ、暗号解けた?」元気な声で風呂上りの綾香ちゃんが部屋に入ってきた。
「ん、わたし眠ってなんかいないろ!」ヨダレを垂らしながら寝ぼけ眼で彩乃は飛び起きた。
「うそ。いびきかいていたよ。」有香は意地悪そうに言った。
もう彩乃ちゃんに遠慮はしない。
「うそ!いびきかいていた?」
「うそよ。でも、疲れたんでしょ。今日は早く寝て明日の朝に話し合いましょ。だから、風呂に入ってきたら?」
彩乃がバスタオルを忘れてきたのを知っている有香は、自分のバスタオルを手渡した。
「ありがとう。でも彩乃、風呂場で眠っちゃうかも…」そういって頭をボリボリ掻きながら部屋を出て行った。
綾香は有香に尋ねた。「ちゃんと、仲良くなった?」
「ううん。なれなかったけど…」有香はニッコリと笑った。
その表情を見て綾香は安心した。「暗号とけた?。」
「ほら見てぇ。」有香は携帯の画面を綾香に見せた。
「すごいね。やっぱり有香ちゃんじゃあ。」
有香は照れながら「やっぱ、綾香ちゃんはスゴイわぁ」
携帯のパスワードは、今日の日付だった。そう、ぱふゅーむとして三人の初めてのミィーティングの日だった。
「記念日じゃね。」
「ほうじゃ。新生ぱふゅーむの誕生日じゃ。」
そこへ彩乃が部屋に戻ってきた。
「で、お風呂ってどこにあるの?」 上半身裸だった。
「ちょっと、彩乃ちゃん!なにしているの!」綾香は大声を上げて彩乃を叱った。
「だって、急いで入らないと有香ちゃんに迷惑かけちゃうし…」彩乃は泣きそうな八の字眉毛でそう答えたのだった。

「ねぇ、彩乃ちゃん。ぱふゅーむでの名前なんだけど、Aクラスのお姉さんが呼んでいるように、のっちって呼んでいい?」
有香と彩乃は6時にたたき起こされて寝ぼけて食卓に座っていた。
「いいよ。のっちって呼んで欲しいって言おうと思っていたんら。」綾香がつくってくれたご飯を前に、彩乃はそう答えた。
「私は、ぱふゅーむでは、あーちゃんでいくよ。」綾香は目玉焼きとサラダの皿を並べながらそういった。
「私は、どうしよう?。ゆかに変えるのは…かわゆかに悪い気がするし…」炊きたての御飯を頬張りながら有香はそういった。
「ほうじゃね。かしゆかでいいと思うよ。」
「うん、のっちもかしゆかがいいと思う。なんかカッコイイよ。」
「そう?。のっちがそういうなら間違いないね。」有香は、彩乃のことを、のっちと呼ぶのが恥ずかしくて背を向けて、ご飯をおかわりしながらそういった。
「彩乃ちゃんのことを、のっちと呼べる日が来るとは思わなかったねぇ~」綾香はおどけてそういった。
「ん?なんかいった?」目玉焼きを食べながら半分眠っていた、のっちはそう言った。
「あれ?まだ眠いの?」有香は目玉焼きに添えてあったレタスをこっそり彩乃のお皿に移しながら尋ねた。「うん。日曜日はいつもお昼まで寝ているから…」
「さぁさぁ、ふたりともご飯をいっぱい食べて、その後に早朝ミィーティングするよ。」綾香はお母さんのような口調でそういった。
「あれぇ~お姉ちゃんたち…起きていたの。」
三人の声で目覚めた、綾香の妹が台所に入ってきた。
「あ、ちゃあぽん!ごめんねうるさかった?」有香は小さな妹を抱き上げた。
「お姉ちゃん。だれ?」
妹の彩華は、彩乃を指さしながら無邪気に尋ねた。
「私、のっちです。新しいぱふゅーむのメンバーです。よろしくね!」
そういって彩乃は彩華の頭を撫でたのだった。
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第8回

「まずは約束事を決めましょう。」綾香は、そうきりだした。
有香はノートを広げて書き留める準備をした。
膝の上の彩華と遊んでいた彩乃の顔つきが真剣になった。
「ぱふゅーむって名前は変えない。それでいいよね」
三人の真剣なまなざしに彩華は、そっと彩乃の膝から降りて空いている席に座った。
「ぱふゅーむって名前は大好きだから、賛成。でも…私の名前には香りってないよ。」
寂しそうに彩乃はそういった。
間髪を入れず有香は「私も、ぱふゅーむって名前を変えたくない。彩乃ちゃんの名前に香りが入っていなくてもいいと思う。そんなの関係ないよ。」
「ほうじゃね。彩乃ちゃんはぱふゅーむに入ったんだもんね。」綾香がそういう。
彩乃は満面の笑顔でコクリと頷いた。
「名前の由来は…お母さんの付けている香水の匂いってなんかいいよね。香水は人の心を優しくするから…っていうことでいいんじゃない。」
「さすが、有香ちゃん。それでいこう!名前はぱふゅーむ。絶対に変えない。」
「賛成!」「賛成!」
「それじゃ、次ね。あのね、仲良しこよしじゃ上手くならんと思うんじゃ。そこで…」
綾香の話し方に二人は惹きこまれていた。
「かしゆか のっち そして私 あ~ちゃんっていうのは、ぱふゅーむとして行動している時以外は使わんっていうのはどうじゃろ?」
頭から?マークを何個も浮かべている彩乃に対して、有香はよく理解していたようだった。
「つまり、ぱふゅーむで動いている時と、それ以外をちゃんと区別しようってことね。」
「いいけど、間違って、かしゆかとかあ~ちゃんとかって言っても叱らないでね?」
「いや、そこは叱るよ。」綾香はきっぱりと言い切った。
彩乃は「じゃぁ、ちゃんと叱ってね。」と何故か笑顔で答えた。
有香はノートに書き込んだ。
「次は、三人のキャラクターなんだけど…」

三人のミーティングは、朝食が終わってから3時過ぎまでずーと続いた。
妹の彩華は、飽きもせずに三人の話しあう姿を見ていた。
細かい約束事を決めて、書き留めたノートの表紙にある文字を有香は書き込んだ。

「あらら、まだ話していたの。」早朝から出かけていた綾香の母親が帰ってきた。
「昼ごはん食べた?有香ちゃん。」
「え、まだです。そういえば、お腹が空いたわ。」
「じゃぁ急いで作るから、あやちゃんも手伝って。」
「ブー!いま、おばさんがあ~ちゃんって言った!だめなんだからねぇ~!」彩乃が嬉しそうに大きな声でそういってはしゃいだ。数時間ぶりに三人の表情が崩れて笑い声が上がった。

「どこまで行けるとおもう。」
「行けるとこまで行こうよ。」
「紅白に出れるくらいにはなりたいよね。」
無理なことはわかっていた。自分たちの今の実力ではスクールでの発表会で良い成績を残し続けることさえも難しかった。
「行こうよ。三人で。行けるところまでじゃなくて、三人でどこまでも行こうよ。」
「そうじゃ。信じることは大切じゃ。」
「絶対に夢を叶えようね。とりあえずは次の発表会で一番になろうよ。」
「ねぇ、お母さん、この字なんて書いてあるの?」人参とじゃがいもと玉ねぎを炒めているところに彩華がノートを持ってきた。
「なに、勝手に持ってきちゃダメでしょう。お姉ちゃんたちの大切なモノなんだから。」
「ごめんなさい。でも、なんて書いてあるの?」
「どれどれ」綾香の母親は手をエプロンで拭きながらノートを受け取った。
ノートの表紙に書かれてある文字を彩華は指さした。

「ぱふゅーむの…いかり…? なんのことじゃろうね。お母さんにもわからんわ」

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第9回

「なに?この子達…こんな短期間で…」
今度の発表会にむけてのオーディションを審査していた水野は信じられなかった。
たしかに、この年齢の子供の吸収力はすごいものがある。
だけど…ダンスに関しては天性の素質が必要なのだ。それを埋めるために十数年レッスンを続けなければいけない。
ただし、それは正しいレッスンでなければならない。
彩乃のダンスのキレやグルーブ感は、この一ヶ月で飛躍的に成長している。
そしてそれ以上に、綾香と有香のダンスの上達は嘘のようであった。

水野は数日前のことを思い出していた。
スクールが終わってから自分の練習をするために、スタジオに入ると三人が一心不乱に練習をしていたのだった。
かけようとした声が喉に詰まった。
少しでもリズムが狂うと、すぐにまたはじめから…それを何度も何度も繰り返して、三人が揃うまで練習をする。
一瞬でもほんの少しでも三人の動きがずれると、三人のうちの誰かがすぐに声を出して謝る。
小学生のレベルではなかった。プロの連中でさえ、ここまでシンクロに拘る者は少ない。
無理な事なのだ。三人がこのダンスで揃うことはできないだろう。
なぜなら、彩乃のグルーブ感は天性の独特なリズムで構成されているのだ。
残念ながら綾香と有香はその素養を生まれ持って来ていないのだ。
とめようと思った。こんなに激しい練習を続けていては、幼い身体に負担だけが残ってしまう。
そう思って、声をだそうとした時だった。
「今日は、これくらいにしましょう。明日の朝7時にはスタジオを開けてくれるっていってくれたけん、疲れを溜めんようにせんと。」
「ほうじゃね。ちゃんとストレッチしよう。あと30分でおかあさん迎えに来るから。」
「さっきの四小節目のあわないところ合ったじゃろ。あそこは、こういうふうにリズム取るけー…」
水野はそっとドアを閉めた。
ちゃんと身体を労りながら、細やかなアドバイスをお互いに的確に話し合っている。
いくら、無理なことであっても挑戦し続ける心意気は大切にしたい。
もし挫折しそうになったら、その時に声をかけてやれば良い。
不可能と思えることに挑戦し続けることが必要な年齢なのだ。
今日はなんだかこの子たちに、とても大切なことを教わったなぁ~と水野はそっとスタジオのドアを閉めた。
それが数日前のことなのだ。
水野は自分の目が節穴だっと思った。そして口に手を当てて喜びの声を隠した。
あの夜、練習していた部分が見事にシンクロしている。
しかも、彩乃が二人にレベルを落として合わせているのではない。
綾香と有香との表情からは感じ取れないだろうが、二人は懸命に彩乃に合わせているのだ。
そして、一見簡単そうに見えるダンスなのだが、独特なグルーブ感で三人の動きが見事にシンクロしているのだ。
鳥肌がたった。奇蹟としか言い様がなかった。
この数日間で… 


「昨日さぁ。私、おばあちゃんのところに泊まるけー、家に帰らんかったじゃろ。
ほしたら、おかあさん、何を勘違いしたか、私が寝過ごしたと思って、岡山駅に連絡したんよ。」
「ふーん。それで?」
「新幹線のどこにも乗っとらんけー、お母さん心配して警察に電話したんだわ。」
「えー!。で、どうしたん。」
「そりゃ、大騒ぎで、お父さんなんか誘拐じゃーゆうて…」
「で、あんたはどうしてたん。」
「おばあちゃんと犬と遊びよったけー。」
「その後、どうなんたん?」
「なんか、とちゅうで、お母さん、思い出してぇ… 警察の人とかJRの人に謝りたおしたんじゃてぇ」
「ふーん。彩乃ちゃんのお母さんは彩乃ちゃんそっくりじゃね。」
「そんなことないよ、彩乃は、お父さん似じゃけー」
彩乃と綾香は、オーディションが終わってリラックスしていた。ストレッチをしながらたわいもない話をしていた。
自分たちで課題としていたダンスの部分が上手くできたので満足だったのだ。
しかし、有香の表情は違った。
いつもなら、この手の話にすぐに食いついて毒舌を吐くはずなのに…
「どしたん。かっしー?」
「うち、ちゃんと踊れんかったけー。二人に迷惑かけた。これじゃぁ、発表会出れないかも…」
「なにいっとるん。今日のかっしーはすごかったよ。」
「ううん。私、二箇所間違えた。」
「なにいってるのん。のっちなんか5箇所は間違えたよ。
かっしーが間違えたと思っている二箇所は、のっちのほうが間違っていたんだよ。」
「えぇー!やっぱり。あ~ちゃんも間違ったかと思うて今、ドキドキしとったんよ。」
「でも、審査員の先生はわからんと思うよ。上手く誤魔化せたけー」
「うそー!」綾香と有香は同時に声を上げた。
のっちの気遣いで、有香の表情も明るくなった。
綾香はそれがよくわかっていた。この三人なら上手くゆく。
今はヘタクソでも、きっとスクールで一番うまくなる。
そして、広島で一番うまいユニットになるんじゃ。と確信を持った。

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第10回
 気がつくと、スクール内でぱふゅーむは特別な存在になっていた。
通常、発表会ごとにユニットのメンバーは入れ替わるものなのだが、ぱふゅーむだけは同じメンバーで続けていた。スクール内の空気がすこしずつ変わってきた。
彼女たちは真剣だった。本気でプロを目指していた。三人でプロになるという固い意志を持っていた。
それも、ただプロとしてデビューしたいといったようなものではなく、ぱふゅーむとして成功したいという固い意志だった。
彩乃は洗顔剤のCMキャラクターに選ばれたことがある。NYへの特別研修に選抜されたりアミューズからも注目されていた。そこでソロデビューの話があがったのだが、「のっちは、ぱふゅーむじゃけー。」という言葉で見送ったことがある。残念がったのは周囲の大人だけだった。
彩乃がこの世界に憧れたきっかけはSPEEDだった。
アクターズスクールに入れば、いつかはSPEEDのメンバーになれると信じてた。
広島と沖縄の違いだけではなく、経営母体も違うという大人の事情を理解したときに、綾香からぱふゅーむ加入の誘いがあった。
スクールでの他のユニットと違って、ぱふゅーむは三人組としての結束が強く、そのパフォーマンスは憧れの的だった。
あんなふうに彩乃もユニットで戦っていきたい。仲間と一緒に戦いたいと、そう想い続けていた。
ダンスと歌には自信があった。誰にも負けないように練習することにも自信があった。
だけど、プロになるには自分には足りないものがたくさんあった。
綾香ちゃんのように、面白く話せるようになりたい。
有香ちゃんのように、物事をしっかりと考えて行動したい。
ユニットとして、それぞれがお互いの足りない部分を補完しあえばいい。
それぞれが得意な分野でやっていけるのがいい。そう思っていた。
そうはいいながらも、綾香ちゃんや有香ちゃんには負けたくないので、勉強も頑張るようになったし、二人が見ていなさそうなお笑い番組を観て、話し方の練習もしている。
そうそう、先日の三人での話し合いがよかった。
「あのさぁ、三人の自己紹介を考えない?」
「なにそれ?」
「ほら、うちらは地味じゃけー。インパクトが必要じゃろ?」
「のっちもそれいいと思う。なんかカッコイイの。」
「のっち、うちらにカッコイイのは無理じゃ。」
「ぱふゅーむDEATH!っていうのよくない?」
「そりゃだめじゃ。曲にあわないじゃん。」
「じゃぁ、どんな感じ?」
「ほら、三平ですとか、レッツゴー三匹みたいな…」
「なに? さんぺ~です ってのはわかるけど…レッツゴー三匹ってパンクバンド?」
「知らないの? ジュンです!長作です!三波春夫でございます…っていうの。」
「なに、なに?三波春夫?長作?」
「えっと、こんな感じ…」そういって綾香はポーズをつけて、一人でレッツゴー三匹の真似をした。
そうやって三人で笑いながら今の挨拶を決めたのだった。
そのとき、彩乃は挨拶する順番を決めると思っていた。
だが、綾香も有香も「え?その時に座った順番で臨機応変にやったほうが面白いよ。」というふうに答えた。
思い切って、ぱふゅーむのリーダーは誰になるん?と聞いたみた。
すると、二人は大笑いをした。
「なにいってるの?ぱふゅーむはそんなんじゃないよ。」と言ったのだ。
「有香ちゃんと一緒にやりたい。彩乃ちゃんと一緒にやりたい。二人と一緒にプロになりたい。それが、ぱふゅーむじゃ」そういったときの綾香の顔は、お母さんのようだった。
有香も「そんなん決めるもんじゃないよ。私にとってはのっちもあ~ちゃんもリーダーだよ。」
「ほーじゃぁ、私なんか有香ちゃんいなかったら、ぱふゅーむでやっていけんよ。」
その日、彩乃はSPEEDに入るという夢を捨てて、新しい夢を心に刻んだのだった。
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第11回

 「なんでぇ…」会場からの声がのほうが早かった。
事務所の方から勧められた歌でパフォーマンスをした。出来は今までで一番良かったのに…
この1年で、ぱふゅーむは大きく進化した。
なぜか、水野先生がずっとぱふゅーむの担当になってくれた。
田中先生のレッスンもとても厳しいものとなった。
必死で食らいついてくる三人に先生方も燃えた。
スクールからプロを出す。という心意気がとても強くなっていった。
三人はその期待以上に応えてきた。
「先生、どうしてかしゆかのパートのほうが多んですか?」
綾香は別に自分が目立ちたかったからではない。有香がとても苦しんでいたのだ。
自分の声にコンプレックスを持っている有香は、一言も弱音を吐かずに歌のレッスンに励んでいた。しかし、ここ数日、頑張りすぎてほとんど眠っていなかったのだ。
「うーん、この曲はかしゆかのほうが声が合うからね。でも、あ~ちゃんの声がベースとなるからね。」
田中先生はタジタジだった。
「先生違うんです、有香は…」そう言いかけて綾香は言葉を飲みこんだ。
彩乃をふりかえると頷いていた。彩乃には綾香の気持ちがよくわかっていた。
そして
有香の負けず嫌いとプライドを大切にしたいと思っている。
ないもいわずに、そうだよね綾香ちゃん。先生には勘違いのままでいてもらおう。
彩乃はそういう表情をしていた。
でも、有香は二人の気持ちをすぐに察してしまった。
綾香は、見た目や言動だけではわからないと思うが、誰かを立てるということへの気遣いは半端ではないのだ。

練習が終わって、三人でコンビニに行った。
有香は黙りこくっていた。
「ごめん…有香ちゃん。」
「ほーじゃ。私のプライドはズタズタじゃあ。」
そうつぶやいた。いつになく、厳しい表情の有香に綾香は泣きそうになっていた。
「ちょっと、そういう言い方は…」
いつもはへらへら笑っている彩乃が、きっぱりとそういった。
「だから、私 二人に馬鹿にされないように…もっとがんばる。」
有香の厳しい表情は、綾香に向かってではなく自分に向けたものだった。
すかさず彩乃は「そうかな。私や綾香ちゃんに追いつけるかな?うちらもどんどん進化していくからね。ね、あ~ちゃん。私もあ~ちゃんには負けないよ。」
綾香は彩乃のその言葉に救われた。
「そうじゃね。でもやっぱり、ちゃんと謝らせて。ごめんね、かしゆか。」
「なにがぁ~、今度言ったら許さんけんね。」そういって笑顔を返した。
この日から、三人はお互いの劣っている部分に対して厳しく意見を言い合うようになった。
傍から見ていると喧嘩しているような口調だった。
だが、お互いがお互いを信頼していた。
何を言い合っても、進歩のためであれば受け入れる仲間なのだ。

そうやって急激に進歩したのに…。
ずーっと発表会では一番をとっていたのに…
今回の発表会では選ばれなかったのだ。
三人は傍目もはばからずに泣き崩れた…パイプ椅子の間に座り込んで号泣した。
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あの頃、今の三人と同じ年齢の先生がいた…

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第12回

 
時代はB系だった。熱唱系が主流だった。
全国放送に出場する機会を得た。
各地のデビューを目指して頑張っている小学生達のパフォーマンスを紹介するという番組だった。
最初は、B系を意識した衣装を着ていた。
しかし、本番前に急遽衣装を変えることにした。
曲には合わないのだが…
小学生らしい衣装でパフォーマンスをすることにした。それが良かった。

「今までの頑張ったのを百%出し切れた…と思います」
「本当は緊張してバクバクで歌も歌えないと思ったけど…やっぱり練習していたので歌もちゃんと歌えたので良かったです」
「凄い緊張したんだけど、楽しかったし…みんなが盛り上げてくれたけー うれしかった!」

番組後、発表会に向けてのユニットオーディションで6人のユニットを組むことにした
帽子をかぶって 14番 ダンスのチームとして参加した
一生懸命練習した… うちらはB系もできるよ。 というか、なんでもできます!。
発表会の終了後には、いつも泣いてしまった… それくらい練習に全てをかけていた。
一曲を何度も何度も練習した。一緒に参加した三人も音を上げそうになった。
「もう一度…もう一度… もっと…もっと…」
そうやって練習した。

23時30分が過ぎた。
もしかして、また岡山駅まで寝過ごしたのかしら…

彩乃は、「広島からの最終便の眠り姫」と新幹線車掌の間では有名だった。
寝過ごすと少しあわてんぼうの美人の母親が心配するから絶対にたたき起こせ!
という申し送りが車掌の間でされていた。

母親は毎日のように心配していた。
今では樫野さんが、広島駅まで毎日送ってくれて、新幹線に乗ったという連絡をしてくれている。
感謝しなくちゃ…そして、私も頑張らくちゃ。
そう思った時に彩乃が笑顔で手を振って走ってくるのが見えた。
「おかえり…疲れた?」
「うん。でも、楽しかった。」
「じゃぁ自転車を取ってきて。」
母親は彩乃の荷物を受け取った。
ぐっしょりと濡れたシャツとタオルで練習着用鞄は重かった。
彩乃はいつものように自転車を漕いで走りだした。
駅から自宅まではずいぶん遠い。
毎日この距離を通っている。
真っ暗な夜道を、母親の自動車に照らされながら走っている自転車。
彩乃の母親は「こんなことも、もう少しだと思うとなんだかさみしい…」思わずそんな言葉をこぼしてしまった。


今回の発表会の審査でぱふゅーむが最終審査に選ばれなかったことに、泣き崩れている三人。
そこに、カメラが近づいてきた。
ぱふゅーむのインディーズデビューとして用意された曲が流された…

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第13回
 インディーズデビュー後は忙しかった。だが、世間には、ほとんど注目されなかった。
住宅展示場や中古車センター、ショッピングモールやお祭りなどでの出番があった。
それでも広島限定発売のCDは売れなかった。
クラスの友達も自分のデビューを知っているはずだった。
だが、その話題になることはなかった。
それは、学校での告知活動は禁止されていたからだろうか。
三人とも学校では同じような気持ちを味わっていた。
なにか悪い活動をこっそりとやっているような感じだった。

一ヶ月後のインストアイベントのために、ビラを作って配ることにした。
大型ビジョンで1時間に一度、自分たちのプローモーションビデオが流れる。
その時間帯をねらって、ビラを配る。
繁華街といっても人通りはそれほど多くはない。とはいえ、
もしかしたら、知っている人が通るかもしれない。同級生に冷やかされるかもしれない。
だが、ぱふゅーむを知って欲しかった。
自分たちのダンスパフォーマンスには絶対的な自信がある。
それが、可愛い系の振付であっても、自分たちの踊りが訴えるものには絶対的な自信がある。
テレビで活躍しているアイドルよりも、自分たちは上手く踊る自信がある。
恥ずかしさよりも、ぱふゅーむを知って欲しい気持ちが大きかった。
インディーズデビュー曲をきっかけに、ぱふゅーむのダンスパフォーマンスを知って欲しかった。
だが、通り過ぎる人たちはなかなかビラを受け取ってくれない。
「あのビデオ 私たちなんです。 もしよろしかったら…」
「ぱふゅーむっていいます。今度、インストアイベントをやります…」
「広島のインディーズグループです。応援お願いします。」
陽がくれて冷え込んできた。
寒さに震えながら小さな手で、ビラを配り続けた。
少し先に、捨てられたビラが風に舞っていた。
追いかけて、それを拾った。
側にあったゴミ箱は捨てられたチラシでいっぱいだった。
有香はくしゃくしゃになったチラシを広げた。
自分たちの夢がとても遠いもののように感じた。
「大丈夫よ、ゆかちゃん。こんなことでめげちゃいけんよ。」
いちばん恥ずかしがり屋の彩乃が肩を叩いた。
「ほーじゃ。ちゃんと読んでくれとる人もいるけん。」
「そうじゃね。チャンスは自分たちでつくらんといけんもんね。」
その夜だけで百枚は配った。

学校の仲の良い友達にも勇気を出して言ってみた。
「無理せんでね。なにかのついででがあればってことで…」
友達の反応は「うん、行けたらいくわ。」という感じだった。


「どれくらい来てくれとるかね。」
「まぁ、お母さんたちが来てくれとるけん。」
「なにいっとるのん。あれだけビラを配ったんじゃ。30人は来てくれとるじゃろう。」
「ほーじゃ。友達も来てくれるって言っとったもん。」
従業員の更衣室で三人は衣装に着替えていた。
「ねぇ、緊張するね。」
「うん。私も…」
「いつものをやろうよ。」
「そうじゃね。」
そういって三人は手を重ねあった。
「がんばるぞ!」「おー!」
「がんばるぞ!」「おー!」
「がんばるぞ!」「おー!」
「がんばるぞ!おー!」
そして沈黙した。
信じよう。自分たちの夢を。自分たちのやっていることを…。
黙っていても、三人ともが同じことを心のなかでつぶやいていた。

司会が紹介してくれる声が聞こえた。
三人は舞台となっている店に飛び出た。
ステージが広かった。とても大きなステージに見えた。
店内の小さな小さなイベントスペースが、学校の運動場よりも広く見えた。
三人のお母さんたちが立っていた。
一瞬、ショックで胸が詰まった。
だが、カラオケが流れている。
「人という字を書きまして…ぺろり飲み込む…」
今まで経験したことのある緊張感とは違った。
スクールでの発表会は、たくさんの保護者や出演者が見てくれていた。
イベント会場でも、自分たちを知らなくても物珍しげに沢山の人達が集まってくれていた。
だが…
イベントは終わった。
司会役の人が原稿をまる読みした。
「この後、サイン会を行います。CDをご購入していただいた方には三人から握手とサインをもらえます。」
お母さんが、CDを持って並んでくれていた。
インストアイベントの観客全員が並んでくれた。5人だった。
三人は泣きそうになるのをこらえながら笑顔で、母親が差し出したCDにサインをして握手をした。
そして…
二人の見知らぬ男性がいた。
店の人だろうか?。それとも、誰かの親戚?
違った。
「良かったですよ。応援します。」
「頑張ってくださいね。次も必ず見に来ますよ。」
二人の男性は照れながらCDを差し出し、サインを貰って、それを大切に鞄にしまった。
握手をしたその二人の大きな手…
その感触は… 綾香も有香も彩乃も…今でもすぐに思い出すことが出来るくらいに暖かかった。
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第14回
あの日、母親たちが歩いた坂道と同じ坂道を、三人は無言で歩いていた。
にわか雨だろうか…路上にポツポツと雫がこぼれている。
乾いたアスファルトの上に落ちた雫はすぐに消えてしまう。

希望に満ちて上京した寮生活は楽しく、お姉さんたちのダンスや歌唱力、パフォーマンスに賭ける姿勢など全てが刺激となった。
BEE―HIVEという大人数でのプロジェクトの一部として活動が主となり、全国区のインディーズとして地方に出かけることもあった。
 三人は同じ中学に通い、寮で同じ食事をして活動を続けていた。
このまま、努力を続けていれば成功できると信じていた。やるべきことをやっていれば認められる。そう信じていた。
 ダンスレッスンのレベルも高くなってきた。音楽プロデューサーも変わった。環境のすべてが変わった。
そして、地道に活動していた。なかなか注目はされないが、一歩ずつ確実にステップアップしている手応えがあった。

かしゆかのダンスは高校生に入ってから身体の成長と共に、とても魅力的なものに変身した。
小さなイベントで、かしゆかのダンスを初めて見た少年がすぐ恋に落ちてしまった。

のっちのパフォーマンスとは別次元の美しさを身につけていた。のっちは、かしゆかに負けないようにと自分なりのリズムの取り方を極める練習を重ねていた。

あ~ちゃんのボーカルも飛躍的に成長した。それは、新しい音楽プロデューサーによってレコーディングで抑圧されたことが反作用になり、爆発ような上達ぶりだった。
いつの間にか伸びるしなやかな声を手に入れたあ~ちゃんに。負けたくないという思いが強くて、のっちも自分なりの歌い方を模索した。

そして、のっちは、二人を通じて多くの人達と心を交わせることができるようになった。友人が増えていった。話すことが苦手な彼女は、美少女なのに自分が笑われるキャラを作り出していた。

 どれもこれもインディーズとして、数多くの場数を踏む中で学んでいった結果だ。
ライブで雪が降ればそれを辛いとは思わず、次回のライブのネタができる!と喜んだし、台風の中でライブをする自分たちを恰好いいと思っていた。
 それでも学校では、広島インディーズの時と同じように、なにか悪い活動をこっそりとやっているような気持ちだった。
学校の先輩や同級生がテレビで大活躍している。
それなのに自分たちはマネージャーの吸うタバコの匂いが充満している小さな自動車で移動して悪酔いしながらイベントをこなしている。さまざまなイベントに出向き、パフォーマンスを披露する毎日だった。
ただ、同級生の活躍を羨んでいたわけではない。自分たちのスタイルには今の活動があっている。
イベントで地方に行けるのも楽しかった。
必要なんだと納得していた。そして、自分たちのスキルが少しずつだが高まっていることを感じていた。
それだけを信じていた。

いつか いつか みんなに注目されるようなアーティストになる…
歌っている途中で、目の前を人が通り過ぎる。
今まで聞いてくれていた人が、ちらりと時計を見てその場を立ち去ってしまう。
ステージの前に誰もいない状態からライブを始めることもよくあった。
店の人の「いまから、パヒームのライブでぇーす!」との呼び込みが会場に虚しく響くこともあった。
ちょっと挫けそうになったときに隣を見ると、すぐそばの二人は笑顔だった。
自分も頑張れる と三人がお互いに想いあっていた。
だから、インディーズではなく全国メジャーデビューが決まったときには自分たちが認められたのだと思った。
これまで積み重ねてきたことが実を結んだんだと小躍りして喜び合った…

なにか口に出せば爆発しそうだった。
すべてが駄目になってしまいそうだった。
でも、許せなかった。
「どーして解散しなきゃいけないのよ。」
口火を切ったのは彩乃だった。
普段、滅多なことでは怒らない彩乃が吐き捨てるように言ったのだ。
「なんで、あんなことを言われんといけんのじゃ。」
綾香の声は涙声だった。
「私は…三枚の結果がどうだって…Perfumeをやめんよ。」
有香の言葉に二人は頷いた。
言葉はそれだけで十分だった。三人の決意は硬かった。
レコードを出せなくなっても、事務所を解雇されたとしても、絶対に三人でPerfumeを続ける。
名前は、ぱふゅーむからPerfumeに変えさせられたけど、三人は変わっていなかった。
どんなに悔しいことがあったとしても、いつか成功する日のために弛まない努力を続けてきた。
誰かが私たちの解散を決めることは出来ない。解散するときは誰かが弱音を履いた時だと暗黙の了解があった。
「ねぇ、あんまりにも腹がたったから… コンビニ寄らない?」
「そうね。悲しすぎるからコンビニ寄りましょ。」
「もう、コンビニ寄るしかないよね。」

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最終回 
 大きなステージだった。そこから見上げる空はどこまでも届いていた。


広島に転校してきた日。転勤ばかりで友達ができるとすぐに転校してしまう。

ゆかは一人で小学校に初登校した。見上げた空はとても青くて高かった。

ちっぽけに感じる自分を好きになれなかった。

自分には何もない…そう思っていた。

だから…変わりたかった…

そして、勇気を持ってスクールの見学に行ったあの日、人生が変わった。

小さかったけれど力強くあたたかい手だった。生まれて初めての握手だったかもしれない。

不安になったとき、勇気を持たなければならない時…ゆかはグッと手を握りしめる癖がある。

あの時の、あの握手から全てが始まったのだ。


あ~ちゃん。信じているよ。私を守って。

手を握りしめるとあの時のあたたかさが蘇るのだった。

今日の空も、あの不安だった時と同じくらい青く高い空だった。

同じ学校に通っていた人たちが…今はすっかりと大人の顔になっていたが…

今、私たちを応援してくれている。

教室では目立たない、名前さえも憶えてもらうことが出来なかった私を応援してくれている。

隣では、のっちが満面のドヤ顔で立っている。

彼女にはいつも助けてもらっていた。

少しだらしないけれど、いざという時には自分のすべてを投げ出して私たちを守ってくれた。

ねぇ、のっち。今わたし達、このステージに本当に立っているんだよね

「母への愛」「情熱」「真実の愛」「愛情」「欲望」「私の心に悲しみを」
「尊敬」「純潔の愛」「わたしの愛情は生きている」
「感動」「感謝」「熱愛の告白」「美しい仕草」
「誇り」「気品」

このステージの名前の 花言葉だ

ねぇ、みんな。私たち…帰ってきたよ。

私たち、ちゃんと頑張れたよ。 褒めてくれる?。

「おかえり」って言ってくれる?

「よく頑張ったね」って言ってくれるよね?

ラクーアから見えた空も

キャナルシティで見上げた空も

新舞子から見た空も

福山夏祭りのステージから見た空も

あの日、渋谷の坂道を悔し涙を堪えながら歩いたときに…三人で見上げた空も…

すべては、今日の空につながっていたんだ

あ~ちゃん。 ありがとう。私とのっちをこの場所まで連れてきてくれて…

ゆかは握り締めていた手をほどいた…

隣を見ると、あ~ちゃんがまた泣いていた。

あらあら、のっちまで泣いちゃった。

今日は三人で泣きましょう。 

いいよね。みんな。だって、ここは私の故郷だもの…

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Posted on 2014/01/29 Wed. 21:24    TB: 0    CM: 3

凱旋! 朝の連続web小説 やねこいのー 勝手に最終回(笑) 

 大きなステージだった。そこから見上げる空はどこまでも届いていた。


広島に転校してきた日。転勤ばかりで友達ができるとすぐに転校してしまう。

ゆかは一人で小学校に初登校した。見上げた空はとても青くて高かった。

ちっぽけに感じる自分を好きになれなかった。

自分には何もない…そう思っていた。

だから…変わりたかった…

そして、勇気を持ってスクールの見学に行ったあの日、人生が変わった。

小さかったけれど力強くあたたかい手だった。生まれて初めての握手だったかもしれない。

不安になったとき、勇気を持たなければならない時…ゆかはグッと手を握りしめる癖がある。

あの時の、あの握手から全てが始まったのだ。


あ~ちゃん。信じているよ。私を守って。

手を握りしめるとあの時のあたたかさが蘇るのだった。

今日の空も、あの不安だった時と同じくらい青く高い空だった。

同じ学校に通っていた人たちが…今はすっかりと大人の顔になっていたが…

今、私たちを応援してくれている。

教室では目立たない、名前さえも憶えてもらうことが出来なかった私を応援してくれている。

隣では、のっちが満面のドヤ顔で立っている。

彼女にはいつも助けてもらっていた。

少しだらしないけれど、いざという時には自分のすべてを投げ出して私たちを守ってくれた。

ねぇ、のっち。今わたし達、このステージに本当に立っているんだよね

「母への愛」「情熱」「真実の愛」「愛情」「欲望」「私の心に悲しみを」
「尊敬」「純潔の愛」「わたしの愛情は生きている」
「感動」「感謝」「熱愛の告白」「美しい仕草」
「誇り」「気品」

このステージの名前の 花言葉だ

ねぇ、みんな。私たち…帰ってきたよ。

私たち、ちゃんと頑張れたよ。 褒めてくれる?。

「おかえり」って言ってくれる?

「よく頑張ったね」って言ってくれるよね?

ラクーアから見えた空も

キャナルシティで見上げた空も

新舞子から見た空も

福山夏祭りのステージから見た空も

あの日、渋谷の坂道を悔し涙を堪えながら歩いたときに…三人で見上げた空も…

すべては、今日の空につながっていたんだ

あ~ちゃん。 ありがとう。私とのっちをこの場所まで連れてきてくれて…

ゆかは握り締めていた手をほどいた…

隣を見ると、あ~ちゃんがまた泣いていた。

あらあら、のっちまで泣いちゃった。

今日は三人で泣きましょう。 

いいよね。みんな。だって、ここは私の故郷だもの…






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Posted on 2011/04/29 Fri. 08:50    TB: 0    CM: 4

朝の連続 Web 小説  「 やねこいのー 」 

久々です 

第十四回
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Posted on 2011/01/27 Thu. 18:23    TB: 0    CM: 0

朝の連続 Web 小説  「 やねこいのー 」 

第13回
 インディーズデビュー後は忙しかった。だが、世間には、ほとんど注目されなかった。
住宅展示場や中古車センター、ショッピングモールやお祭りなどでの出番があった。
それでも広島限定発売のCDは売れなかった。
クラスの友達も自分のデビューを知っているはずだった。
だが、その話題になることはなかった。
それは、学校での告知活動は禁止されていたからだろうか。
三人とも学校では同じような気持ちを味わっていた。
なにか悪い活動をこっそりとやっているような感じだった。

一ヶ月後のインストアイベントのために、ビラを作って配ることにした。
大型ビジョンで1時間に一度、自分たちのプローモーションビデオが流れる。
その時間帯をねらって、ビラを配る。
繁華街といっても人通りはそれほど多くはない。とはいえ、
もしかしたら、知っている人が通るかもしれない。同級生に冷やかされるかもしれない。
だが、ぱふゅーむを知って欲しかった。
自分たちのダンスパフォーマンスには絶対的な自信がある。
それが、可愛い系の振付であっても、自分たちの踊りが訴えるものには絶対的な自信がある。
テレビで活躍しているアイドルよりも、自分たちは上手く踊る自信がある。
恥ずかしさよりも、ぱふゅーむを知って欲しい気持ちが大きかった。
インディーズデビュー曲をきっかけに、ぱふゅーむのダンスパフォーマンスを知って欲しかった。
だが、通り過ぎる人たちはなかなかビラを受け取ってくれない。
「あのビデオ 私たちなんです。 もしよろしかったら…」
「ぱふゅーむっていいます。今度、インストアイベントをやります…」
「広島のインディーズグループです。応援お願いします。」
陽がくれて冷え込んできた。
寒さに震えながら小さな手で、ビラを配り続けた。
少し先に、捨てられたビラが風に舞っていた。
追いかけて、それを拾った。
側にあったゴミ箱は捨てられたチラシでいっぱいだった。
有香はくしゃくしゃになったチラシを広げた。
自分たちの夢がとても遠いもののように感じた。
「大丈夫よ、ゆかちゃん。こんなことでめげちゃいけんよ。」
いちばん恥ずかしがり屋の彩乃が肩を叩いた。
「ほーじゃ。ちゃんと読んでくれとる人もいるけん。」
「そうじゃね。チャンスは自分たちでつくらんといけんもんね。」
その夜だけで百枚は配った。

学校の仲の良い友達にも勇気を出して言ってみた。
「無理せんでね。なにかのついででがあればってことで…」
友達の反応は「うん、行けたらいくわ。」という感じだった。


「どれくらい来てくれとるかね。」
「まぁ、お母さんたちが来てくれとるけん。」
「なにいっとるのん。あれだけビラを配ったんじゃ。30人は来てくれとるじゃろう。」
「ほーじゃ。友達も来てくれるって言っとったもん。」
従業員の更衣室で三人は衣装に着替えていた。
「ねぇ、緊張するね。」
「うん。私も…」
「いつものをやろうよ。」
「そうじゃね。」
そういって三人は手を重ねあった。
「がんばるぞ!」「おー!」
「がんばるぞ!」「おー!」
「がんばるぞ!」「おー!」
「がんばるぞ!おー!」
そして沈黙した。
信じよう。自分たちの夢を。自分たちのやっていることを…。
黙っていても、三人ともが同じことを心のなかでつぶやいていた。

司会が紹介してくれる声が聞こえた。
三人は舞台となっている店に飛び出た。
ステージが広かった。とても大きなステージに見えた。
店内の小さな小さなイベントスペースが、学校の運動場よりも広く見えた。
三人のお母さんたちが立っていた。
一瞬、ショックで胸が詰まった。
だが、カラオケが流れている。
「人という字を書きまして…ぺろり飲み込む…」
今まで経験したことのある緊張感とは違った。
スクールでの発表会は、たくさんの保護者や出演者が見てくれていた。
イベント会場でも、自分たちを知らなくても物珍しげに沢山の人達が集まってくれていた。
だが…
イベントは終わった。
司会役の人が原稿をまる読みした。
「この後、サイン会を行います。CDをご購入していただいた方には三人から握手とサインをもらえます。」
お母さんが、CDを持って並んでくれていた。
インストアイベントの観客全員が並んでくれた。5人だった。
三人は泣きそうになるのをこらえながら笑顔で、母親が差し出したCDにサインをして握手をした。
そして…
二人の見知らぬ男性がいた。
店の人だろうか?。それとも、誰かの親戚?
違った。
「良かったですよ。応援します。」
「頑張ってくださいね。次も必ず見に来ますよ。」
二人の男性は照れながらCDを差し出し、サインを貰って、それを大切に鞄にしまった。
握手をしたその二人の大きな手…
その感触は… 綾香も有香も彩乃も…今でもすぐに思い出すことが出来るくらいに暖かかった。

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Posted on 2011/01/13 Thu. 23:07    TB: 0    CM: 5

朝の連続 Web 小説  「 やねこいのー 」 

あの頃、今の三人と同じ年齢の先生がいた…

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km.jpg


第12回
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Posted on 2011/01/09 Sun. 10:04    TB: 0    CM: 2

朝の連続 Web 小説  「 やねこいのー 」 


第11回

 「なんでぇ…」会場からの声がのほうが早かった。
事務所の方から勧められた歌でパフォーマンスをした。出来は今までで一番良かったのに…
この1年で、ぱふゅーむは大きく進化した。
なぜか、水野先生がずっとぱふゅーむの担当になってくれた。
田中先生のレッスンもとても厳しいものとなった。
必死で食らいついてくる三人に先生方も燃えた。
スクールからプロを出す。という心意気がとても強くなっていった。
三人はその期待以上に応えてきた。
「先生、どうしてかしゆかのパートのほうが多んですか?」
綾香は別に自分が目立ちたかったからではない。有香がとても苦しんでいたのだ。
自分の声にコンプレックスを持っている有香は、一言も弱音を吐かずに歌のレッスンに励んでいた。しかし、ここ数日、頑張りすぎてほとんど眠っていなかったのだ。
「うーん、この曲はかしゆかのほうが声が合うからね。でも、あ~ちゃんの声がベースとなるからね。」
田中先生はタジタジだった。
「先生違うんです、有香は…」そう言いかけて綾香は言葉を飲みこんだ。
彩乃をふりかえると頷いていた。彩乃には綾香の気持ちがよくわかっていた。
そして
有香の負けず嫌いとプライドを大切にしたいと思っている。
ないもいわずに、そうだよね綾香ちゃん。先生には勘違いのままでいてもらおう。
彩乃はそういう表情をしていた。
でも、有香は二人の気持ちをすぐに察してしまった。
綾香は、見た目や言動だけではわからないと思うが、誰かを立てるということへの気遣いは半端ではないのだ。

練習が終わって、三人でコンビニに行った。
有香は黙りこくっていた。
「ごめん…有香ちゃん。」
「ほーじゃ。私のプライドはズタズタじゃあ。」
そうつぶやいた。いつになく、厳しい表情の有香に綾香は泣きそうになっていた。
「ちょっと、そういう言い方は…」
いつもはへらへら笑っている彩乃が、きっぱりとそういった。
「だから、私 二人に馬鹿にされないように…もっとがんばる。」
有香の厳しい表情は、綾香に向かってではなく自分に向けたものだった。
すかさず彩乃は「そうかな。私や綾香ちゃんに追いつけるかな?うちらもどんどん進化していくからね。ね、あ~ちゃん。私もあ~ちゃんには負けないよ。」
綾香は彩乃のその言葉に救われた。
「そうじゃね。でもやっぱり、ちゃんと謝らせて。ごめんね、かしゆか。」
「なにがぁ~、今度言ったら許さんけんね。」そういって笑顔を返した。
この日から、三人はお互いの劣っている部分に対して厳しく意見を言い合うようになった。
傍から見ていると喧嘩しているような口調だった。
だが、お互いがお互いを信頼していた。
何を言い合っても、進歩のためであれば受け入れる仲間なのだ。

そうやって急激に進歩したのに…。
ずーっと発表会では一番をとっていたのに…
今回の発表会では選ばれなかったのだ。
三人は傍目もはばからずに泣き崩れた…パイプ椅子の間に座り込んで号泣した。

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Posted on 2011/01/06 Thu. 20:46    TB: 0    CM: 0

朝の連続 Web 小説  「 やねこいのー 」第10回 

いぁ~ 仕事も始まってしまいました…
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Posted on 2011/01/04 Tue. 21:44    TB: 0    CM: 4

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